サイトの紹介として、僕の方から恥ずかしい話をさせてもらう。こういうのがちょっと苦手だけど、やっぱり「もてあそばれた」というサイトなりの自己紹介にぴったりの挨拶かもしれない。
彼女は僕が初めて恋愛感情を抱いた相手だった。高校二年から彼女とデートするようになった。幼稚園時代にも恋人はいたものの、初めてまっとまな恋いに落ちた女性として、彼女が初めてだった。
彼女の両親は離婚の手続きをしていた時、僕らがお互いに惚れ惚れになった。僕は男として女性をデートに誘う義務があると感じていたが、15歳の自分がよっぽど恥ずかしくて、どうしても出来なかった。だから、毎日彼女と話して、ある日彼女があまりにも悩んでいたところ、敢えて自分の電話番号を渡した。
彼女はその夜、僕に電話をかけてきてくれた。
僕がめちゃめちゃ嬉しかった。
それから毎晩二時間ぐらい話すようになった。それで母は全く嬉しくなかったけど。
彼女は妹が二人で、両親の離婚に長女としての責任を強く感じていた。僕自身の両親はその時数年前に離婚したし、僕は兄弟四人の長男で、彼女の悔しい話に同感しないことはなかった。
そして、夏休みに入る直前、彼女の方から告白された。
もちろん、僕は「はい」と早速言った。(誘われたから男らしさに欠けていることを感じていたのだが)
それから毎晩電話時間が四時間へ向かっていた。母に言われた。「自分の電話回線を書いてくれない?そのぐらい使うものなら。」
僕は彼女と話すだけで、空の天井に歩いているような気がした。とっても嬉しかった。それから数ヶ月後、いつものように彼女と話していた。彼女は本当に困っていて、僕にいろいろな文句をぶつけていた。僕はというと、彼女の声に夢中になって金魚の茶碗を見ていたその時、気付いた。一般に男性が女性の愚痴を聞くと、疲れる。その女性にくどくど聞かせると、嫌いになることに無理はない。しかし、僕は彼女が愚痴ばっかり言っていても、好きでたまらない。それが「love」に気付いた。
数日後、公園に行って、二人っきりで塔に登って、僕が彼女に言った。「I love you.」それからキスがとめられなかった。
僕らはいつも一緒だった。何でも話し合えた。僕らはお互いの初恋として、あまりにも正直だった。
当時プライベートの日記はあったが、それも彼女に見せた。それほど彼女を信用していた。
その日記に、もちろん彼女のことは書いていた。でも、僕は馬鹿正直で、彼女と付き合ってからでも、オナニーとなるとすぐ他の女性(しかも、実際自分が嫌いな女性)を想像してしまうことについても書いた。その反省は日記の数ページぐらいを占めていた。
「あんなことまで書いたのはショックだったわ」と彼女が言った、日記を渡した次の日。
「ごめん。いや、本当に申し訳ない、いろいろ」
「謝らなくて良いのよ。ただ、アンタがあんなきもい女性をイメージするのはちょっと気持ち悪い」
確かにそうだった。まあ、こういう思い出をこのぐらいにしておけ。伝えたいのは、当時の僕はいろいろな短所はあったと思うが、たった一つの一つは、正直さだった。
彼女と付き合ったことをきっかけに、僕は長い間持っていた「小説を書く」夢を実現出来た。まだただの友達であったとき、何かの話のついでに彼女もいつか小説を書きたいと思っていることがわかった。励まし合って精を出し、八ヶ月後には僕が小説を書き終えた。書き終えた時、僕らは既に付き合うようになっていた。小説の実現は、正に僕らの愛の実現を反映しているようのでは、と思ったことさえある。
自分でも驚いたことには、書き終えた小説はロマンスだった。僕は一冊もロマンスを読んだことがなかったのに。小学校四年の時からずっとSF小説を書こうと思っていた僕が、なぜかわからないがロマンスを書いてしまった。中学校時代に書いたSFの下書きは400ページ以上もあったが、結局違う方向に行ってしまった。彼女の影響と思う。
僕はそもそもロマンスの世界が嫌いだった。皆、愛に落ちると馬鹿になるようだったから。そのうち、「良いロマンスというものはあり得るだろうか」と考え始めた。それから小説を書いた。
その作品で好きな所と言えば、全体が日記式で、前半が男の子の視点から、後半が女の子の視点から書かれているのだが、真ん中で男の子が事故に逢い、後半を読み始める読者にはそこまでの主人公が生きているかどうかわからない、という構造だ。視点を変えることで、物語を進めるのはユニークな手法ではないが、視点を操って遊ぶのは楽しかった。
完成した作品はシングル・スペースで45ページだった。おそらく本当に小説と呼ぶには短すぎるだろうが、始めから終わりまで必要だと思うことは全て書いてしまったから、量を増やすために無理に書き加える必要はないと思った。
僕が初めて書いた小説は読むに耐えないものだった。完成した時には、自分の表現力の乏しさにうんざりしていた。これはあくまでも自分だけの気持ちだから、僕が良いだろうと思っても他の人に見せるほどの作品ではなかった。
一年間幸せな毎日を送っていた。しかし、三年生になると、彼女は近くの図書館にバイトをし始めて、僕らの高校の卒業生に再会された。そして、いつの間にか彼女と長電話する時、彼女は彼の話以外なんの話題を持てないみたい。
気のせいか、と最初は思ったが、どうも彼の話ばっかり。
結局、自分の誕生日直前、自分の部屋にいた時、「別れたいわ」と彼女が言い出したのだ。
そのとき、「これはあくまでもあたしの個人的な問題だから、絶対他の男とデートするなんてことはないわ。今でもあなたのことが大好きよ。ただ、自分の時間がほしいの。」と言ってくれたので、単純な僕は彼女を疑わなかった。
当時の僕は恋愛に関して全く疎く、自分自身の悩みの相談に乗ってくれるような友達もいなかった。だから、失敗を繰り返しては知識を得るという試行錯誤で進むほかなかったのだ。
残念なことに、彼女の別れの言葉は大嘘で、たったの二週間後には、その図書館の人と付合い始めた。何よりも腹が立ったのは、奴があまりにも情けない男だったことだ。
もし僕と別れたのがもっと素敵な男性と付合うためだったとしたら、それは悲しくても仕方がないと思っただろう。だが、彼は高校卒業後に図書館の整理係になるような奴だった。大学に行かないで、時給500円ぐらいの本棚の整理係に就職してしまった。皮肉なことに、彼は本に対する興味は全くなかったようだ。趣味と言えば、音楽鑑賞と大麻ぐらいといったところだ。醜いチビでモテなかったタイプだった彼は、高校生時代に彼は彼女が二人しか出来なかった。二人とも後輩だった。(日本の習慣は知らないが、アメリカの高校では、歳の離れた後輩と付合う男子生徒(特に四年生と一年生が一緒になる場合)は幼稚と思われる。男なら、子供には興味を持たない筈だという考え方だ。)
信頼していた人に裏切られることくらい辛いことはない。彼女は僕を裏切った。もし、別れた時点で正直に、直接「彼が非常に気に入って…」みたいなことを言ってくれたら、僕は彼女を許すことができたと思う。でも、その時僕が「やっぱり僕と別れるのは彼のせいなんだね」と聞いたのに、彼女はハッキリ「いいえ、絶対そうではないわ」と答えたのだ。
彼女が彼になんの魅力を感じていたか、当時まったく見当が付かなかった。
とにかく、彼女はその彼と付き合うようになり、六ヶ月後には彼と別れて、他の彼氏を探し始めた。次を見つけることは見つけたが、この彼はゲイだったから僕は本当の彼氏とは認めていなかった。そして4年生の最後の学期になった時には、彼女はまた『独身』になっていた。プロム(卒業ダンスパーティー)が迫っていた。アメリカでは春学期にあるプロムという三、四年生のカップルのパーティーが大イベントで、高校と言ったら世間はそれしか連想しないぐらいの大騒ぎだ。僕は全然行きたくなかったが、プロムに行くのが彼女の夢の一つだということはよく知っていた。だから、僕は彼女をプロムに誘った。一応別れても彼女のことを愛していたから、彼女の夢を叶えてあげるために誘ったと言えるだろう。
この話には、もうちょっと続きがある。これは書くべきかどうかわからないが、僕の彼女への怒りには今まで何も書いていないもう一つの理由があった。それは、一回だけでなく、二回僕を裏切ったことだ。
別れてから六ヶ月後、彼女から電話があった。
「彼と別れたの。」と彼女。
僕は「なんでわざわざ僕に報告する必要があるんだよ。」と答えた。
「もう一度付合いたいってわけじゃないけど、ただ、今友達があまりいないし、彼にふられてすごく傷ついてるから、誰とでも話したい気分なの。もちろんアンタは誰よりもあたしの愚痴を聞く義務がないんだけど。本当に悪いけど、お願い。アンタしかしかいないから。」
こういうだらしない現実に直面すると、一年前の僕達の幸せが嘘のようだった。「いったい僕はあの頃何を考えていたんだ」と、それまでの関係全てを後悔し始めた。それでも、結局は彼女の愚痴を聞いてしまったのだ。
そのときでも僕はまだ彼女が好きだった。でも、好きな気持ちばかりではなかった。憎みもあった。そして、彼女の話の途中で吐き気を覚えた。
「実はね、悪いけどさ、(これは彼女の口癖だった)、あたし、彼と○○したよ」
これには本当にうろたえた。カソリックで育てられた僕は、無意識的に人間の価値というものは個々の性行動によって決まるものだと信じていた。そして、セックスに関しては、相手の人数が少ないほど善いのだと思っていた。神様の存在を疑っていた僕だが、セックスに関しての規則は疑わなかった。
キリスト教の性についての考えでは、一般的に自分の体を『大切にとっておく』ことが望ましいと考えられている。
要するに、彼女は僕とより彼と進んだということだ。しかもたったの三ヶ月の付き合いで。彼女が僕にこれを告げた時、「なぜ僕にこんなことを告白しているのか」と考えたのと同時に、思わず聞いてしまった。「彼をそんなに大切に思ってるの?」
「そうでもないわ。」と彼女。
これには更に驚いた。「そんなに大切な人間ではないなら、なぜそんなことを?」
「その場の気分にのっただけなの。アンタにはわからないと思うけど。」
ある意味彼女の言い分は当たっていた。僕には彼女の動機が全く想像出来なかったことは確かだから。
僕たちは一年間半の付き合いの末に、いわゆる二塁(B)というところまで行っていた。当時はそれが僕達の我慢力や善さの証拠だと思っていたのだ。
その頃やれば出来るのにやらなかったことを彼のような奴のために捨てるのは僕には全くわからない行為だった。
僕は普段電話で話しているとき、動き回る癖がある。ただ立っているのでなくて、話しながら歩き回らなくてはならないタイプだ。しかし、彼女のその話を聞いた時は、憤慨のあまり座り込んでしまった。
僕は若かった。彼女とは初恋だったので、他に比べるような経験もなかった。友達の中でも、僕はガールフレンドが出来たのが一番早かった。そして、両親に彼女とのことはあまり話せなかった。
その電話の会話の時から、それまでの愛がだんだん腐り始めた。その腐ったところから、嫌悪が芽生えてきた。それまで,僕は本当に彼女のため一生懸命頑張った。一年間半、自分のことは棚上げにして、彼女のことばかり考えていた。そのお礼に彼女は他の男性と性的な関係を持った。
男には誇りというものがある。お互いを大切にするとまで行かない場合でも、ある程度気を配らなくてはならない。だがやはり良い関係というのは、お互いの悩みを解決しようと努力することだ。互いに正直に夢を話し合って、一緒に将来を一緒に探す。
僕と彼女はそういう信じられないような幸せな時期があった。にもかかわらず、後であまりにもひどい仕打ちを受けた。
まあ、思えば僕より酷い失恋をされた経験のある人は多いだろう。しかし、その実際の出来事より、心の中の感覚がなによりも辛いように、皆は本当に相手の痛さが分かっていないのでは、と僕は思う。
まあ、とにかく、長い自己紹介させてもらってありがとう。これからもよろしく。